医者と母のコントのような真面目な話 ~我が家の免許返納~
ニュースに上がらない日がなくなってきた高齢者の事故。
我が家は1人に1台車が必須となるような田舎に住んでいて家から最寄駅まで若者の足で歩いて20分以上かかる地域はザラ。さらに電車の本数は1時間に2~4本。
市内を回るバスはあっても停留所まででも高齢の方の足では15分以上かかる場所もあり、コースや本数は少ないので乗り継ぎ、乗車移動時間で半日が終わってしまうような“ド”がつくほど田舎です。
農家も多いので肥料・農作物の運搬もやらなくてはいけないような大地主さんたちも多くいます。
我が家の祖父
我が家もこのニュースは他人ごとではなく、昭和11年生まれの現在83歳の祖父がいます。
定年後再雇用され、65歳までしっかり働いた後は全国あちらこちらに自分の運転でバリバリ移動して観光や旅行を楽しんでいました。
車関係の仕事に就いていたこともあってか車も運転も大好きで、どこに行くでも運転手を任されることも多かったようです。
定年後すぐのころに1度、母の車にぶつけたことがあります。ほんの少し軽くでしたが「不注意だったのかな?」と軽く見ていました。
身体は健康そのもの。お酒は好きだけど、スポーツしていてケガした時と健診以外では病院とは無縁の生活をしていました。
異変
3年ほど前のある日突然、祖父に異変が。
祖父は実家で母と二人暮らしで、異変に気付いたのは母でした。
母が仕事から帰ると母の部屋のサイドボードのガラス戸が粉々に砕かれてたそうです。
この時祖父は自室で寝ている時間でしたのでいつものように姿は見当たりません。
母「私の部屋に入ったか?」とドアごしに祖父に尋ねると
祖父「覚えていないけど、頭から血が出ている」とろれつが回っていない様子で返答が返ってきた。
その日は酒は飲んだそうだが、普段から飲んでいて記憶を失うほど飲むことはまずないので、すぐに傷と様子を確認し病院受診をした。
病院でのコント?のような真面目な話
この時は夜の10時を回っていたので、市内の市民病院の救急外来を受診。
その時の医者の専門科は覚えていないが、これまでの経緯を話したところ
医者「心電図と採血の検査をしましょう」
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医者「検査結果は特に異常もなく血圧も正常ですね~。」
母「でもろれつが回っていないんですよ?」
医者「ん~でも心臓には異常がないです。」
母は看護師ではありませんが看護学校に通っていた経験と介護系の現職の経験から脳梗塞を疑っていました。
というより、ここまで読んでこう想像した方もいるのではないでしょうか?
しかし母も医者ではありませんし、医者が目の前にいるのになかなかハッキリとは言えずにいました。
母「でもちょっと心臓じゃなくても異常があるように思うのですが…」
医者「じゃぁ~、一応脳の検査もしてみますか?」と渋った様子。
母「お願いします。」
と、結果は脳梗塞でそのまま入院になったわけですが、我が家の半数以上が病院・福祉関係で働いているので、このドクターと母の会話には首もひねりたくなるし驚きを隠せませんでした。
幸い祖父は対応が早かったため後遺症はほとんどなく日常生活に戻ることが出来ました。
免許返納
日常生活に戻れたとはいえ、今回倒れたのが自宅だったからまだよかったものの「もし運転中だったら…」と思うとゾッとしてなりません。
そしてやはり当の本人は倒れた間の意識も病院に行った件も記憶にはなく恐怖心も危機感もあまりない様子。
免許返納を促しても「どこにも行けなくなっちゃう」というばかり。
たしかにそうなんです。市営のバスは市内をグルグルするだけで、遠出には電車が必要で電車には乗り慣れていない祖父。引きこもる事は容易に想像できます。
母はバリキャリでほとんど家にはおらず、孫の私たちもそれぞれ仕事もありましたので、簡単に「いつでも車を出すよ」とは言えない状況。
かといって人様を傷つけるような事態は起きてほしくないし、そんな人生の締めくくり方は絶対にさせてはいけないとも思っている。
だんだんと母と折り合いが悪くなる祖父。
「入院中に何とかしないと、運転しだしたら大変だ」と家族全員が思っていました。
医者に協力を仰いで「“運転はやめた方がいい”と言ってください」と頼んでも「そういうことは言えない」と断られました。
警察にも「こういう現状だけど免許を強制的に失効することはできないのか?」と相談するも「無理やりには出来ないし警察は介入できない」と言われ、困り果てていました。
そんなときにたまたま来た“免許更新通知”。
この時は世間でも高齢ドライバーの事故がニュースになることはあっても“更新講習での認知機能検査は甘い”と言われていたので、更新に連れて行って合格出来たらそれこそ「運転していいと言われた」と言われかねないと思い、更新通知が来たことを隠そうかと思いました。
しかし祖父には正直に話をして、家族も祖父自身も守りたいという事を伝えた上で、「全快した時、運転できそうだと感じたときにもう一度免許取得の為に試験センターに行こう。その時には移動のお手伝いはします」と言い、さらに事故を起こさず、免許の期限内なら身分証の代わりにもなる“運転経歴証”が受け取れて、いろんなサービスを受けられることも伝え、四の五の言わせず車に乗る機会があった時に警察署に連れて行きました。
かなり渋っていましたが、警察署内でごねる訳にもいかず、他の返納する人を見たりしたせいか最終的には返納をしてくれました。
返納後
今でも「免許がなくてどこにもいけない」と言いますが「ありがとう、感謝してるよ。今度の休みに○○に行こう」とだけ伝えています。
返納後受けられるサービスは地域ごとに違うと思いますが、わかりづらく覚えることも出来ません。
「もっとわかりやすく恩恵が受けられたらいいのになぁ」と感じています。
タクシー月額制とかあるんでしょうが私の住む地域にはありません。
車の維持代、ガソリン代を考慮したら割とかかっても安全をとって返納する人も増えそうですよね。「病院くらい気兼ねなくタクシーを呼べるといいなぁ」なんて考えちゃいます。
返納を促すためのサービスが分かりやすく充実してくる未来を願っています。
私自身は定年後すぐの体力のあるうちから三輪自転車でも乗り回しての生活ができるように…と当事者ではない今は思っていますが。高齢になるほど必要になる車移動との決別は特に田舎の当事者にとっては死活問題です。
まだまだ考える余地はありそうですね。